本来画家の遺族ならば再び遺作展を開く、もしくは画集を出すのが一番良いんでしょうが、
我が家は誰一人として絵に興味、関心がありません。
また祖父が生きていたとしたら91歳。
残念ながら祖母も亡くなった今、個展を開くにも誰に案内状を出してよいのかすら解らないのが現状です。
(祖母もさほど絵に関心はありませんでしたが)
しかももし万が一、
今、一週間画廊を借りて個展を開いたところで、
もはや死後17年も経っている地方のそこそこの絵描きの遺作展を一体何人の人が見に来るでしょう。
田舎の画廊は大体朝9時開館の夕方5時、6時で閉館です。
普通の人は土日に仕事、 もしくは旅行のようなイベントがあれば美術館なんか行きません。
じゃあかといって平日の昼休みに昼御飯食べるのをやめて、交通費(駐車場代)を払ってまで
ちょっとした知り合いの個展にワザワザ行くでしょうか? 「 別に買いもしないのに 」。
僕ならきっと足を運ばないでしょう。
おまけに高知県はやたら広く、高知市で個展を開いても、遠方に住んでいれば一週間の間で見に行くのは困難です。
また祖父はムサビを出て、東京で働いていた事もあるようなので多少全国に知り合いもいたでしょう。
大阪と神戸と東京でそれぞれ個展を開いている事だし、もし開催するにしても、間違いなくこれが最後になるので
学校時代の同級生にでも連絡して、出来るだけ一人でも多く見て頂きたい。
しかしながら年令が年齢だけに、連絡先が判ってもその当時の方達も生きているかどうかは解りません。
ましていきなり連絡して 「是非高知に見に来て下さい」とは言えません。 僕が結婚式で実家に帰るのとは訳が違います。
そんな現実的な事を考えると、大赤字を出してまで遺作展を開く事は出来ません。
また祖父はさほど絵の上手い画家ではありませんでした。
画集を出すとしても、奉賀帳を頼りに過去作品を購入してくださった方を調べ、その方々にお願いして作品をお借りし、
写真を撮るのは正直あまりにも大変な作業です。
だからといって高いお金をかけて、あまり上手でない画家のアトリエに残された売れ残り作品の
ベストセレクション画集を出すというのはどうしても僕個人の性分が許しません。
もし仮に画集が出来たとして、今さら人に差し上げるにしても、
これもまた誰にあげれば良いのかも解らないし、考え方は人それぞれだと思いますが
それはちょっとした押し付けだとも思えるからです。
そんな複雑というか地方の絵描きなら遺族なら誰しもが直面する(?)壁にブチ当たり画集も断念いたしました。
1980年春